大地と空の領域を緩やかに規定する大屋根
1970年代から宅地造成が行われた山の中腹から裾野にかけて広がる斜面に建つ住まいである。都心近くに位置しながらも、緑溢れる豊かな自然を形成している環境だ。しかし南北方向に細長い敷地の南面には何の脈略もない高層マンションがそびえ立ち、異様な景観を生み出しながら、南側からの採光やプライバシーの確保が難しい状況をつくり出していた。一方、高低差がある東面は斜面に沿って美しい川が見下ろすことができ、遠くの山並みと市街地が一望する優れた眺望を同時に持ち合わせていた。
この微地形を取り込む大地に根ざした断面計画に大らかな屋根によって内外の領域を横断するする立体的な空間を考えた。具体的には、1,000mm×64mmの集成材で2,700mmの井桁状に編んだ大きな屋根を12本の末広がりの鉄骨十字柱などで支えている。このフラットでリジッドな屋根形状と数種類のフロアレヴェルによる変化は、開放的な場から内向的な場へグラデーショナルに外部との多様な空間体験を常に生み出していく。周辺のスケールを逸脱した建物が建ち並ぶ現代において、地形と周辺環境を丁寧に読み解き、人と建築の豊かな関係性を再構築することが、この地におけるごく自然な景観を取り戻すことに繋がるだろう。