岡山市内の果樹園が広がる⾧閑な集落に建つ農家直営の小さなカフェである。
敷地周辺は清水白桃という有名な品種の発祥地でありブドウ・マスカット・イチゴなど一年を通して様々なフルーツが採れる地域である。桃農家を営むクライアントから要望は、地域が衰退していく農業に対して活気を取り戻す旗艦棟として、この地域の果実を使ったジェラートやスイーツを提供するカフェを農園に併設することであった。
計画にあたり周辺に広がる温室群の特徴的なビニールハウスを参考に、華奢な構造で有機的に地形を覆う即物的な建築の構法による空間を考えた。具体的には斜面の敷地形状を活かすためドローンによる 3 次元測量から配置を決定し、アルゴリズミックデザインによってアーチ曲率と木梁ユニット寸法・仕口検討を行っている。アーチは 55×210mm の杉材を用いて 1 辺が 3,800mm の正三角形ユニット 67 個で構成し曲率半径約 8m の四分円アーチを形成している。したがってフラクタルな骨格ユニットの集合による、おからな空間構造が内外部のアクティビティを誘起することを考えた。さらに直線材で構成されたアーチによる壁 / 屋根は土手の斜面に直接接地するようなディテールによって自然の地形と建築が一体的な環境となることを意図している。
クライアントの想いは桃を活かしたジェラートなどの食の提供を通して、農家の方々がどのように果実を育てているかなど訪れる人たちへ向けて、この地域の取り組みや豊かな風景を体感してもらうことにある。加えて、この建築をきっかけとして周辺の温室群の活力を盛り上げていく旗艦棟としての役割を持たせる強い思いをもっており、ソーシャル・サステナビリティを継続していく重要な取り組みである。