鞆の浦で創業135年を迎える十六味保命酒店の改装計画である。建物は鞆の浦の重要な観光通りとなる旧県道沿いの角地に位置し、2階建ての外観からは重厚な当時の趣が感じられるものであった。一方、明治から現在にかけて幾度となく行われた増改築の中で店舗として機能する場所は延床面積の1割程で手狭な空間となっていた。
計画にあたり建物をサーベイして実測図面を起こしていく中で、利用されなくなった場所から井戸や露地、坪庭などの情緒ある空間を確認することができた。鞆の浦の路地的要素を持っているこの建物を活かすため、迷路的のような路地空間の延長となる店舗を考えた。具体的にはバラバラの素材で分断されていた空間の床仕上げを統一することで空間をつなげ、坪庭や露地などの外部空間から内部まで既存礎石を利用した飛び石を連続させ内外が一体的な環境を生み出そうとした。
新築では生み出せない歴史ある建物ならではの時間を紡ぐデザインによって、さらなる未来へ持続していけることを期待した。