これまでも建築と庭との関係について、それぞれの領域を拡張させるべく思考してきた。そして軒や庇、縁側などを再解釈することで、日本建築が持つ自由な空間性を取り込むことに注力した。この住宅では、自然環境の中で屋根が生み出す領域について改めて考えている。
敷地周辺は、切妻や寄棟といった伝統的な街並みが広がっている。そこで、陰影をつくる深い軒や空の移ろいを映し出す瓦屋根を取り入れ、この地域に馴染みながらも新たなスカイラインをつくる木造真屋(切妻屋根)を考えた。専用住宅としては比較的広い敷地に対し、1棟の大屋根で解くのではなく7棟に分割することで、外部環境との接続面をつくりながら回遊性のある平面計画とした。屋根の勾配や高さ・向きの変化によりプライバシーや採光・通風・眺望を獲得し、内部の連続性に抑揚を与える配列により全体を構成している。
屋根は、矩形の3つの頂点を固定し1点のみ指でつまみ上げたような形態である。これを7棟数珠繋ぎに、周辺環境に合わせ敷地全体に配していった。7つの頂点が描き出す稜線によって周囲の街並に馴染みつつも新たなスカイラインを形成し、内外部における領域を拡張させる。さまざまな方向性を持った切妻屋根が集積した形態は、上部屋根面と下部の平面構成が別々で成立しながらも互いの変化を許容し、人の振る舞いを多方向へ導き出す。
平面からは読み取れない断面方向のズレが生み出す間合いとランドスケープの接続によって、住まい手に新たな知覚を喚起する環境になることを目指した。