「かさね色」の空間構成
奈良県の閑静な住宅地に建つ、将来親子2世帯で住まうことが想定された住宅である。敷地はなだらかな丘を雛壇状に宅地造成した一画にあり、道路面と1m程度の高低差は大きな生駒石によって覆われていた。この自然石を含めた敷地の状態を活かしながら、周辺環境とのインタラクティブな関係を目指した。まず、建蔽率及び容積率の最大値を活かした大きな一室空間のボリュームを、近接する10枚の壁により分節し、重層するレイヤーをランドスケープと合わせ横断的に繋ぐことで空間領域の豊かさを考えた。また今回、建主からは「色」を用いることをテーマとして与えられた。そこへの応答として、日本の四季の情景を結晶化したような王朝時代の「かさね色」から、数十種類の色味の試作を行った。そしてそれをランドスケープに配植する花の色と合わせながら検討を繰り返し、「かさね色」の空間を構成した。それぞれ間合いの違う壁面が生み出す9つの空間領域に彩りを施すことで、陽光や風の揺らぎ、季節の移ろいなどを映し出し、多彩な表情が生まれた。壁と壁との隙間は、水平方向には領域を横断しながら、垂直方向には天井の存在を消すような距離感を生み出す。色とりどりの静謐な光の階調から、底知れぬ深淵のような居場所までが連なっていく。春のサクラにはじまり、夏にはカキツバタ、秋は
モミジやイチョウ、冬にはマツやタケなど春夏秋冬の樹々や草花、自然の音色や薫りなど季節折々の「かさね色」を詠みとりながら、日常の豊かな時間を奏でていく環境を目指した。