30年前クライアントがイスラエルを訪れた時、偶然出会った人物がアンネ・フランクの父、オットー・フランク氏であった。その時に頂いたメッセージを大切にされ、1995年に旧記念館が開館し、ホロコーストをテーマに平和教育を子どもたちへ発信し続けてきた。12年間という歳月の中で手狭となり今回の新記念館建設への計画が上がった。ホロコーストで600万人とも言われるユダヤ人が亡くなり、その中の150万人は子どもたちであったと言われている。ここではその150万人の子どもたちに焦点を絞った展示やその事実を通して平和教育を子どもたちに行っている。設計から竣工までの4年間、記念館の館長をはじめ運営サイドの方々と対話の中でプログラムがつくられていった。敷地は当初から旧記念館の駐車場として使用していた場所である。決して広くはなく、東面には通行量の多い幹線道路、西面は住宅地、南面は河川、北面は畑や牛舎があるユニークな環境であった。計画としてはメイン展示とアンネの部屋の2つの展示室を中心にレクチャーをするホール・ギャラリー、こどもたちが学べる学習ルーム、様々な文献やPC検索などができるライブラリーである。建築の構成はシンプルなキューブを2つに分節しその空間同士をつないでいくというものである。展示室間を移動する際、吹抜を介して館内の人と人のコミュニケーションや気配といったものがインタラクティブに広がっていくことを意図した。また、建築全体を構成するコンクリート金ゴテ押えの床や手織りの鋼板による壁や白壁など手の質感の残る素材としながらも空間を抽象化できる仕上方を取り入れた。それは館内がこどもたちによって満たされ、素材の微妙な陰影を感じる時、希望の光が感じられる空間となり建築全体が完成する事を意識したからである。それは、素材によって人と光のより緊密な関係が訪れる人たちに対して何かを感じてもらえることにつながると考えたからだ。
ここを訪れる子どもたちが過去の事実を学び、未来へ平和をつなげていける記念館として社会に発信していくことを期待する。