領域を広げる弧状の浮遊壁
緩やかに湾曲する雛壇状の宅地北面角地に建つ家族3人の住まいである。
周辺環境は東面にある土手を挟んで住宅街が広がっており、敷地からも土手越しに長閑な風景を望むことができる。南西面を隣家に囲まれつつも、北東の前面道路に対して扇形に開かれた特徴的な場所であった。
今回の計画にあたり、南西を中心点に前面道路側に向かって同心円上に壁を増幅させながら、内向的居場所から外部へと弧状に切り取られた空間を反復させた。また、周辺の緑地帯を庭の延長として見立てることで、境界を曖昧とし、領域を広げるような形式をこの特異な敷地で試みた。
具体的には、道路斜線制限上可能な建築のヴォリュームを敷地境界際まで伸ばし、敷地形状に沿って立てた弧状の大きな壁との間に生まれた小さな庭を、内外のバッファーとして機能させた。このいくつかの開口を穿った物量のある土壁は、地表面より700mm程度浮遊させてプライバシーを確保しながら外部の延長としての内部のような空間をつくり出している。また弧状の形態は、刻々と変化する南からの陽光を北東壁面に映し出し、各居室で光の様相を感じることができる。
家族の居場所と道路境界までの僅かな距離を、小さな立体的ランドスケープと浮遊する大きな1枚の壁によって、人が関わりをもつ範囲を広げる、豊かな環境を生み出した。