福山市中心市街地の一画に建つ住宅の計画である。北側前面道路に接する敷地は南北に細長く折れ曲がり、敷地周囲は住宅とビルによって囲われている。このような敷地の中においても日常の豊かなひとときを奏でていくための空や水・土・陽光・風、そして動植物とのインタラクティブな関係性が生まれる市中山居のような環境を考えた。
計画としてはコートハウス的な要素を内部に取り込みつつも、周辺外部から遮蔽されたような関係性ではなく、もっと人が関わりを持つ範囲を広げていけるような関係性を目指した。南北に延びる敷地に対して1つの大きなボリュームで捉えるのではなく、3つのボリュームに分節し、ボリュームの隙間から滲みこむ外部環境とのつながりを期待した。
具体的には東西の隣地に対して地面から立ち上がる6枚のRC独立片持ち壁により3つの殻を形成した。その間に生まれた大きながらんどうと内外殻が混じり合うことで生成されるスリット。そこに、分節された殻を跨がっていくような異なるフロアレヴェルを持つ自由な木造スラブによって、ランドスケープと絡まりながらそれぞれの居場所をつくりだしている。そして、大きさの異なる殻は複雑に内外部空間を紡ぎ出しながら、陽光や風が人の滞在場所を抜けていく。甲殻類のような殻と殻との隙間と断続的な内部空間によって分棟形式のようでありながら領域が規定されない広がりを獲得している。
それは、中心市街地にいながら現代の山居のような環境を生み出している。
都市部の住宅街において敷地周辺の状況を丁寧に読み取っていきながら近隣とのほどよい領域の関係性をつくり出すことこそ、何気ない日常のひとときを豊かなものにさせるエッセンスだと思っている。