住むとは人間あるいは生物を取り囲みインタラクティブな環境領域に身を置くことである。そこには生物の生きていく多様な活動があり、その領域を拡張していくと都市から森や海へ、そして地球から宇宙へと分節されることのない環境の総体を住まいとして捉えることができるのではないだろうか。人間や植物など生命あるもの、そして大地の地形や大気の状態など刻々と変化し続ける様は、この世に常住不変はないことを気付かせてくれる。そのような地球の鼓動である自然のうつろいを日常の中で意識できる豊かな空間領域に興味がある。
今回、大阪府狭山の小高い丘にある敷地周辺の自然環境との相互作用から生成される境界の関係性について考えた。それは、地形や大気の中で壁/屋根の要素によって空間の取り巻きをつくり出すのではなく、陽光や月光を遮る雲のような覆いによってつくり出す領域である。つまり地形や大気の状態に、ある領域をつくりながらも総体としてはどこまでも広がる境界のない建築原理である。ひとすじのたなびく雲が重層的に織り重なり、群峰のような谷間から差し込む光の露出や深度によって、大気のがらんどうは居場所としての領域を顕在化させる。この東西にたなびく覆いは夏季の直射光を遮蔽する軒の働きから始まり、光の微妙な階調、風によるゆらぎや大気の状態、自然の奏でる音や香り、身体的距離感など、四季を通じて多様な空間領域を彩る構成要素となる。覆いによって生成された場の状態は特定の機能に特化する空間ではなく様々な行為によってパラフレイズしていく地形の居場所となる。自然の関係性から導かれる境界を解き放つ建築は小さな集落のようなスケールから、峰の稜線を連ねていく尾根のようなスケールまで輪郭を変容しながら風景へと滲んでいく。