瀬戸内海に囲まれた島の中腹に建つ住宅。敷地からは瀬戸内海の水平線や、向かいに浮かぶ島の町並みが見渡せ、耳を澄ませば波の音や、葉擦れの音、そして潮の香りがする素晴らしい景観が広がっている。クライアントからの要望はご夫婦、愛犬ポチと30坪程の平屋で海の眺望が望める田舎暮らしであった。内海町という場所は古い町並みが広がる田舎町である。この素晴らしいロケーションを形成しているものは海・山・遠くに見える島々、そして切妻や寄せ棟の点在する屋並みである。そこで、この場所のコンテクストを意識したシンプルな切妻を選択し、北東の道路からのプライバシーを確保するため最低限排水がとれる位置までFLを下げ、既存の木々を残す位置で南北に伸びる細長いプランとした。リビングとルーバーに囲まれたオープンスペースは内と外とを曖昧につなぎエントランスからデッキ・下の畑まで続いている。この回遊性をもったオープンスペースは、近所の人が玄関に上がらずデッキに廻れ、景色を見ながらお茶をするといった土間空間のような意図をもたせた。そしてリビング・ダイニングキッチンを中心に北面に伸びる形で各所室を配置し南西の海に対し開いている。断面ではリビングまでを登り梁の構法にすることで、南面のルーバーとリビングを軽快なものにし、天井高で各部屋との変化を持たせている。また、各部屋の欄間部分をガラスにすることで部屋全体の連続性をもたせた。クライアントが年を重ねるのと同じように、この自然の中で年々深みを増し、質感があるものとして「木・いぶし瓦・土間に埋め込んだ備前焼・打放しコンクリート・珪藻土・竹」など出来るだけ素材感のあるものを取り入れた。雨・風・光とともに四季を感じながら、10年・20年後と、ゆるやかに時間(記憶)をつなぐ風景となりえるような居場所になればと思う。